2013年10月05日

アレクシア女史とソフロニア嬢

   



 前から気になっていた「英国パラソル綺譚」アレクシア女史シリーズ。面白そうなんだが、スチームパンクは当たり外れがあるので外したらヤだなあと思っていた。で、ゲイル・キャリガーの「英国空中学園譚」ソフロニア嬢シリーズの第一弾『ソフロニア嬢 空賊の秘宝を探る』をたまたま読んでみたら、これがなかなかイケる。

 規格外れのお嬢様が放り込まれたフィニッシングスクールは実はスパイ学校でしたというオハナシ。フィニッシングスクールってのは俺の理解だと、社交界デビュー前の上流階級のお嬢が学ぶ「花嫁学校」なわけですね。そもそも「花嫁学校」って死語だけどさ。

 そのスパイ学校では通常のフィニッシングスクール的な礼儀作法やらなんやらの授業に加え、スパイ術、暗殺術、さらには殿方をたらし込む失神の仕方なんかを学ぶわけだ。失神ってのは当時(ビクトリアンエイジですな)の女性はガチガチにコルセットで締め上げられていたこともあって、胸郭が圧迫されている分、肺活量も制限されていたため極めて失神しやすかった(らしい)。で、この女性が失神する姿に萌える男も多かった。ささいなショックで失神する=上品で繊細でフラジャイルな存在というイメージですかね? もちろん女性が無力化される瞬間を目撃するというサディスティックな欲望もあったはず。となると女性軍の方にも「男性の気を惹くために失神した演技をする」という戦術が生まれてくるのは必然です。

 学園物ラノベ風というかね。でも女子高なのでイケメンは戦闘術を教える人狼の先生くらい。男の子は級友の弟とか学園の最下層の機関室で石炭運んでるディケンズに出てくるみたい小僧たちとか、あんまり恋愛の対象じゃないのがほとんど。ヒロインは元気で創造的で体力があるというキャラクター。

 全然、話飛ぶけど、欧米の少女探偵ものの系譜とかに位置付けられるのかもしれない。ほとんど読んだことないけどさ、エドワード・ストラッテメイヤー他の『少女探偵ナンシー・ドリュー(ドルー)』とかさ。そうそう、その手の系譜といえば少女と言えるかどうかは別としてC.C.ベニスンの『女王陛下のメイド探偵ジェイン』なんてものあったなあ。内容忘れちゃったけど、カバーアートが萌え系メイドさん(フレンチメイド)じゃないあたりがなんとも雰囲気ですよ。エマとも違うからね。

 それはさておき、こういうのはキャラと世界観でほぼ決まり。当然意地悪な上級生が出て来ます。この娘が単なるイケズじゃなくって、もっと腹黒い。落第させられても学園に対してある秘密を隠し通したりする。この他、自分の学校の正体に全く気付いてない学園長だとか、全然スパイに向いてないけどスパイの家系に生まれてた親友とか、血中マッチョ濃度の高い人狼城の御姫さまとか、男装の発明少女とか、友情あり、裏切りあり、追跡劇あり、乱闘ありで、アニメで観たい的波瀾万丈。ヤングアダルト向けなのか、今のところ百合っぽさはなし。問題はまだ第1巻のみという点。本国版もようやく第2巻が出るか? という現状なんだな。これは各巻が独立しているとはいえ一気読みが一番楽しい読み方なので、我慢できる人は全巻出揃うまで我慢した方が吉。

 アレクシア女史の方は全5巻一気読み可能。スチームパンクなヴィクトリア朝時代が好きならば買いでしょう。異界族(人狼、吸血鬼)に触れるとその変身が解けてしまうという反異界人体質のオールドミスがヒロイン。オールドミスって言っても20代半ば。当時は婚姻年齢が低かったからね。亡くなった父親がイタリア人で、再婚した母親と義父と邪悪でバカな妹二人と同居中。そんなヒロインがとあるパーティ会場で、たまたま吸血鬼を殺してしまったことから、恋と冒険の大渦巻に巻き込まれてしまう。

 吸血鬼を殺してもヘッチャラというあたりからすでにタダモノではないわけですが、頭脳明晰で実行力抜群。論理に裏打ちされた舌鋒の鋭さには誰も勝てません。作者ゲイル・キャリガーのスゴイところは、突飛なヒロイン造形でありつつ、時代性を忘れてない。いくらスーパーウーマンなヒロインでも、当時の社会の常識、因習から完全にフリーというわけではない。階級意識は当然ある。今だったら差別者として批判されるような発言もある。で、別の側面でも彼女はヴィクトリアンな、つまり社会道徳は過剰(椅子の脚が見えるのすら「はしたない」とするくらいムチャクチャな倫理観)なのに、性生活はそれなり、あるいは奔放という「オマエラ公私分けすぎ!」な人間だったりもするわけだ。

 ソフロニア嬢と違うのは、こちらは明確に大人向け。なのでセックスシーンありです。アレクシア女史は物語の途中で結婚し、夫とはしょっちゅういちゃいちゃするし、そのままかなりの頻度でセックスを楽しみますよ。ポルノじゃないので詳細な描写はないけれど、「新婚だから、やることはやりますよ」という感じ。なるほど、一部に「ハーレクィン的」と評されるのはこのあたりかと。確かに、「世間的にはパッとしないヒロインが伯爵夫人になる」ってハーレクィンにはよくあるパターン。

 なるほどなあと思ってたら、読み進むにつれ、出ました百合、来ましたBLという感じで、むふー! と鼻息が荒くなる俺。もちろんポルノじゃないですから、ズバリはないんですが、同性愛関係がストーリーの重要なカギになっているので、同性愛フォビアの人は覚悟してないとツライかも。


posted by 永山薫 at 15:35| Comment(0) | 読書

2013年09月29日

魔法の島




 オペラのDVDは買っておかないと、すぐ完売してしまう。買える時に買っておかないといけない。油断してるととんでもないプレミアが付く。まあ、それでも実演のS席に比べれば安いんですが。しかし、うかつにプレミア中古なんか買うと、何故か再発されたりしますからね。


 今回購入した『魔法の島』こと『The Enchanted Island』は、YouTubeで見つけて、ガビーンとなって日本語字幕版が出たら買おうと思って我慢していたけど、全く出る気配がないまま、どんどん在庫稀少になっていったので、泣きながら輸入盤に手を出した。

 英語字幕があればなんとかなる。いや、それって俺の英語力だとキツイんだけど、ないよりはいい。

 さて、本作である。二次創作オペラと言えばいいのか? シェークスピアの「テンペスト」と「真夏の夜の夢」をベースに、ヘンデル、ヴィヴァルディ、ラモーなどのバロック・オペラの美味しいところを引用しまくったという怪作ですよ。日本で言えば、

 怪作とはいえ、指揮はバロック・オペラではおなじみのウィリアム・クリスティ。めちゃめちゃカッコイイんだよね。タクトなしでビシッビシッと振る。欧州の頑固な貴族ジジイ的な雰囲気ですが、アメリカ人。ハーヴァード大卒のインテリ。美術史専攻だったのに、何故かイェール大学でカークパトリック(大物)に師事してチェンバロ奏者になったという。

 演奏はクリスティ率いるレザール・フロリサンかと思いきや、ザ・メトロポリタン・オペラ・オーケストラ。

 プロスペロー役にカウンターテナーのデイヴィッド・ダニエルズ。熊系でカウンターテナーですからね。見た目と声のギャップがハンパないです。日本のゲイ雑誌でも紹介されたことがあるそうです。熊系って人気あるよなあ。




 エリアル(アエリアル)役に『ジュリオ・チェーザレ』の歌って踊れる小悪魔的クレオパトラ役で大注目のソプラノのダニエル・ドゥ・ニーズ。「マイ・ボーイ」って呼び掛けられてるから男の子役なんだな。本作でも弾けておりますが、衣装がいいよね。最初がスチームパンク風で、その後、ヘルメット式の潜水服、最後が金ピカの鳥というコスプレ。

 で、なんとドミンゴも出てたね。ネプチューン役。このコスプレがまたすごい。てゆーか海底の舞台装置自体がすごすぎ。人魚が宙乗りしてますよ。こういうケレン味テンコ盛りのスペクタル・オペラは実演で観たいぞ。


posted by 永山薫 at 01:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽